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バーバモジャのストラップがついたパステルピンクの携帯がうなって今日も朝が来る。
けたたましい音が鳴ったにも関わらず、横で寝ているもじゃもじゃはまだ夢の中にいて、がさがさ身体を揺すってみても起きる気配は全くない。

「ねえ、あかや、おきて」
(もうとっくに朝なんだよ)







大学生ってなんて怠惰な生き物なんだろう。
私は今、惰性だけで生きてるんじゃないだろうか。

受験することもなく、そのまま立海の大学部に内部進学して、念願の一人暮らしだって始めてみたりした。窮屈に感じていた中高時代の生活から解放され、大きく生活が変わると思っていたけれど、実のところは何も変わらなかったし、大学という大きな世界の中でただただ自分の居場所を探す毎日に慣れることもないまま、流されているだけ。

私は大学への期待とか、そういったものを全て捨てた。

いつの間にか外へ出ることすら億劫になってしまい、そのまま私の狭い狭いアパートの一室に赤也が転がり込んできた。

うだるような暑さの七月だった。

高校生は期末考査が終わり、夏休みの補習期間中で部活がないのをいいことに勝手に住み着いた赤也は大層のんきだった。いくら内部進学だからって…みんなこの期間に予備校とか行ってるんじゃないの?こんなところで油売っててもいいのー部長さん?と、自分は言える御身分でもないのに小言を二、三並べてみたりもした。

「今しか出来ないことやるんスよ」

昨日だったか一昨日だったか赤也がそう言った。
もう時間も曜日の感覚すらも薄れてきてしまった。
そして、それは何か、これからのことを全部悟ったような口ぶりだったので怖かった。







おそらくもう正午に差し掛かる時間に、赤也はむっくりと起きた。
それから少し汗ばんだ身体のままで、やっぱり私を抱いた。

「あッ…」

小さくて大きな悲鳴を上げた。怖かった。でもそれ以上に、時々私を乱暴に扱う彼がたまらなく愛しいと感じた。おかしいことだと分かっていても止められない。なんて違う。おかしいことだと分かっているから止められなくて癖になるのだ。
矛盾ばかりが私をこんな風にするの?

乱暴な行動がいま、彼の何を物語っているのかを私は知らない。
がさつなくせに震えている手先だったり、ちっとも満足でない表情だったり、そういう細かな部分に自分の心が表れてしまっていることを知ってる?知らないでしょう?一度でいいから赤也に聞いてみたい。けれど彼はきっとそれを許さない。許してくれない。







夕日の沈む頃に、私は珍しく起きていた赤也の腕の中にいた。
その時に窓から見えた夕日がすごく美しいものに感じて、本当にふと、「現実が恋しい」と思った。


先輩、わかってるから」
「もうちょっとだけここにいて」

ね、赤也、私何も言っちゃいないのに、あなたに伝わるのね。
ごめんね、お互いにもう少し、今に対して真面目に向き合えば良かったのかもしれないね。

気付いてしまえば、これ以上彼と一緒には過ごせなくなってしまった。
私は逃げていた現実を切望して、彼の腕からすり抜けた。



怠惰な美徳化




( 彼のいない一人ぼっちの部屋で、いつまでも続かない関係を思って少し泣いた )



@biwa.  大学生は食う寝る遊ぶヤる(2008/7)


(補足)彼女は自分がこれ以上赤也と共に過ごして、双方堕落していくのが耐えられなくて、
赤也もそれを悟っていたというお話でした。