「この一年間は私にとって、かけがえのない一年になりました。自分一人ではここまで来ることは出来なかったと身に抓まされます。全ては皆様のおかげです。言葉に出来ない程のたくさんの感謝があります。今日まで支えてくださって、ありがとうございました――」


年度末の、桜が綺麗に咲き誇ったこの日。
一年前の今日とは打って変わって、私はまっすぐに幸村精市を見据えて、彼のスピーチを聞いている。中高生の時にはテニス部の部長、社会人になってからは支社長、そしてこれから部長になる彼は、私の夫になる人だ。ちなみに私は本日をもってこの会社から退職することが決まっている。

一年前、唐突な告白に半信半疑ではいたけれど、「結婚を前提に」と言った彼の言葉は本当の本当。本気だった。幸村精市の告白に返事をしたあの日から、信じてみようと決めて私は待つだけだった。季節は優しく色を変えたけど、ここで我武者羅に走った彼の一年は綺麗なことばかりではなかった。彼にとっては厳しい判断も、苦しい時期もあっただろう。ただ、彼は決して諦めなかった。直感で努力の人だと感じた期待は裏切られることなく、仕事を理由にないがしろにされることもなく、ただただ愛情深さと彼の人としての大きさを身を持って知った。真っ直ぐすぎる彼の強さに支えるつもりが、支えられていた。ありがとうと、恐れ多さよりも次第に感謝の気持ちや慈しみばかりが大きくなっていった。

遠目からこちらに向けて花が零れそうな笑みを浮かべた彼が見える。「は〜あ、羨ましい、私も早く寿決めたい」と横で盛大に溜息を洩らした同期に、「偶然だよ」と返しておいた。
偶然、だけどそれを必然に変えてくれた彼を私は心から愛している。

あと数ヵ月したら、私はチャペルで神様の前で愛を誓うことになる。
「夫を愛することを誓いますか」と問われれば、「はい、誓います」と答えることになるだろう。その時にはこっそり、心の中でこう付け足そうと思っている。

「あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
「はい、誓います」

私は生涯、夫を愛することを誓います。


(――神様じゃなかった、私の可愛い、人の子を。)




@biwa.  spitz「運命の人」がイメージソングです ( 2018/3 )